心を豊かにするワインの世界

ワインは情報量の高い飲み物。香り、味、ブドウ品種の特性、気候、文化、歴史、生産者の哲学…。どこまでも奥行きのある飲み物。だからこそ夢中になれる。心を豊かにする。ワインを理解するために、ワインを楽しむために、経験を積み重ねていく。

スティルワイン概論(赤ワイン編)

赤ワインは黒ブドウをアルコール発酵して作る。

醸造方法

収穫/ヴァンダンジュ/Vendange(仏)

熟したブドウを軸事取り入れる。 北半球は9~10月、南半球は3~4月に行う。 手つまみで収穫する場合と、機械で収穫する場合がある。

選果/エプルシャージュ/Epluchage(仏)

収穫したブドウから状態の悪い実・茎・葉っなどを取り除く。 ベルトコンベアにのせて手作業で行う場合と、自動選果システムを使って機械的に行う場合がある。

除梗/エグラパージュ/Ègrappage(仏)

ブドウの梗(軸)と果実を分ける作業。 あえて除梗しない醸造スタイルもある。

破砕/フラージュ/Foulage(仏)

ブドウの粒を果皮が敗れる程度に荒くつぶす。 除梗破砕機で一気に除梗と破砕を機械的に行う。

酸化防止と雑菌のために酸化硫黄を添加することもある。

主醗酵/Main Fermentation(英)

アルコール発酵のこと。果醪にを発酵槽に入れ、酵母を加えてアルコール発酵させる。 赤ワインは30度程度に温度調整して発酵する。

通常、発酵はお酒の文脈においてアルコール発酵を指す。 しかしワインの場合は、後述のマロラクティック発酵と区別するために、主醗酵と呼び分けている。

主醗酵においてブドウの糖が不足している場合は、補糖を行うことがある。

補糖/シャプタリザシオン/Chaptalization(仏)

ブドウの糖が少ない場合、糖を添加してアルコール発酵の原料を補う手法。禁止されている国もある。

糖をはアルコールと2酸化炭素に分解されるため、補糖によってワインが甘くなるわけではない。

醸し(かもし)/マセラシオン(仏)

果皮・種・梗をアルコール発酵タンク内で漬け込む。 果皮からはアントシアニンなどの色素を、種子からはタンニンを抽出して赤ワインの色合いや渋みを出す。醸し時間によって色合いや風味を調整する。

果帽(かぼう)/シャポー/Chapeau(仏)

醸し中に2酸化炭素に押し上げられて果醪の上側に浮かび上がってきた果皮や種子の古都。

果防は醸しを妨げるため、ピジャーズ・ルモンパージュ・デレスタージュなどの方法でかき混ぜる。

ピザージュ・ルモンパージュ・デレスタージュの効果:

  • 渋みやタンニンの成分を均一に抽出する。
  • 酸素を供給して酵母の働きを活発化させる。
  • 酵母・糖・温度を均一化する。

ピジャージュ/Pigeage(仏)/punch down(英)

棒でかき混ぜて、発酵槽上部にかたまった果防をほぐして鎮める方法。

手作業のため重労働だが、ワインに負担をかけないため、手間暇かけて上質なワインを作る場合に用いられる。 もしくは、小規模生産者で機械を導入できない場合にも採用される方法。

モンタージュ/remontage(仏)/pomping over(英)

ポンプで発酵槽の下部の果醪を吸い上げ、果防の上に噴射して液体をかき混ぜる方法。

ポンプを使うので人の手は不要だが、酸素を多く吸い込むため、アルコール発酵の速度が速まってしまうと考える人もいる。

澱抜き静置法/デレスタージュ/delestage(仏)

果防が浮き上がってきた段階で、果汁のみを取り出してしばらく静置したのち、再びタンクに戻すことでかき混ぜる方法。 タンク内の果汁の抽出状態を均一にできる。 また、果防のみ空気に触れさせることで酸化が促進し、タンニンがやわらかくまろやかな触感になる。

圧搾/プレシュラージュ/Pressurage(仏)

果皮・種子を取り除いて果汁のみを残す。 ワインのタイプや生産者によって、圧搾の強さやタイミングが異なる。

マロラクティック発行/Malo-lactic fermentation(仏)/MLF

アルコール発酵後ワインに含まれるリンゴ酸が乳酸菌の働きによって、乳酸と2酸化炭素に変化する現象のこと。

MLFは自然に起こることもあるが、醸造用乳酸菌を添加して人為的に起こすことが多い。

MLFの効果:

  • 酸味がやわらぎまろやかになる。
  • 複雑性が増し、芳醇な香・味になる。
  • 微生物学的に安定する。乳酸に変化することで、リンゴ酸を好む微生物の繁殖が抑えられるため。

熟成/エルヴァージュ/Elevage(仏)

発酵が終わったワインを、品質が安定するまで保管する。 赤ワインは樽熟成といって、木樽(オーク樽)に寝かせて熟成することが多い。 ただし、ボージョレ・ヌーヴォーのようにステンレスタンクで短期間熟成してフレッシュな赤ワインに仕上げることもある。

樽熟成の期間は3か月~2年程度。2年を超えると味が落ちる。

補酒/ウイヤージュ/Ouillage(仏)

樽熟成中にワインが木目から蒸発するので、同じワインを補って隙間をうめる。 隙間ができると酸素が入り込んで必要以上に酸化が進んでしまうため、それを防ぐために行う。 蒸発してワインの量が減ることを天使のわきまえと呼んでいる。

澱引き/スティラージュ/soutirage(仏)

樽熟成中に沈殿した澱を取り除く。 上澄みを別の樽に移し替える作業を繰り返すとだんだん澱が少なくなっていく。

澱とは、ポリフェノール、酒石、酵母、タンニンなどの沈殿物のこと。

清澄(せいちょう)/コラージュ/Collage(仏)

ワインの濁り成分を清澄剤を使って固めて沈殿させて取り除く。 清澄剤には卵白・ゼラチン・デントナイトなどがある。

過度なコラージュは味わいのバランスを崩すこともあるため、ノンコラージュを歌うワインもある。 ボルドーでは余った卵黄を使ったカヌレ・ド・ボルドーというお菓子が有名。

濾過/フィルトラージュ/Filtrage(仏)

フィルターにかけて浮遊物や微生物を取り除く。 香りや味わいの成分まで濾過されてしまうと考えて、濾過を行わない(ノンフィルトラージュ)な生産者もいる。

瓶詰/アンブテイヤージュ/Embouteillage(仏)

赤ワインは瓶詰したあとも熟成がゆるやかに進む。

タンニンが多く含まれるフルボディのワインは長期熟成できる。

赤ワインの醸造技術

マセラシオン・プレフェルメンテール・ア・ショー/Maceration prefermentaire a chaud(仏)/MPC

タンニンが穏やかで渋みの少ないタイプの赤ワインを作る醸し方法。 果皮・種・果汁を75度以上まで加熱し、色素やタンニンを抽出。圧搾後、常温に冷やして発酵させる。

マセラシオン・フィナル・ア・ショー/Maceration finale a chaud(仏)/MFC

タンニンを多く抽出して重めの赤ワインを作る発酵方法。醸し発酵ともいう。 破砕後の果皮・種・果汁を30 ~ 35度で加熱し、マロラクティック発酵(MLF)が起こるまで保持しておく。

マセラシオン・プレフェルメンテール・ア・フロア/Maceration Prefermentaire a froid(仏)/MPF/Cold maceration(英)

果実間味の強いワインを作る発酵方法。ピノノワールのワインでよく用いられる。

発酵前の果醪に亜硫酸を添加し、温度を5~15度に保持することで、一定期間発酵が起きない状態にする。 果皮からアントシアニン、種子からタンニンが抽出され安定し、果実間豊富なワインになる。

マセラシオン・カルボニック/Maceration carbonique(仏)

破砕前の黒ブドウを2酸化炭素気流中に数日おく方法。 アントシアニンなどの色素が抽出されやすくなる。 その後圧搾して果汁のみを発酵する。 色が濃くて渋みの少ないワインができる。 ボージョレ・ヌーヴォーで用いられる。

全房発酵

除梗せずに梗ごとマセラシオン発酵させる方法。ハーブやスパイシーな風味が付く。

ミクロオキシジェナシオン/Microoxygenation(仏)

発酵中または貯蔵中のタンクに、多孔質のセラミックのチューブを通して細かい酸素の泡を吹き込むことによってワインの参加を促進する技術。

ミクロオキシジェナシオンの効果は7つ。

  • 酵母の活動が活発化し、アルコール発酵の開始を早めたり度数を高めたりする。
  • 酸素の流入によってアントシアニンとタンニンの重合が進み、ワインの色合いが安定する。
  • アントシアニンとタンニンの重合によって、タンニンの収斂性(ざらつき)が減少し滑らかな触感になる。
  • 酸素流入によって角な還元を抑制し、ワインの欠陥臭や、草や野菜などのグリーン系の香りを抑える。
  • 香りが複雑になる。
  • 熟成が進むため飲み頃や速まる。
  • 熟成が早まるためコスト削減になる。

熟成をはやめる手法のため、長期熟成タイプには向かない。

樽熟成について

赤ワインは樽熟成することが多い。

樽熟成の効果

  • フェノール成分の重合による沈殿。
  • 穏やかな酸素との接触
  • 清澄化の促進。
  • 風味の複雑化。
  • 樽からの成分抽出。
  • 色調の安定。

樽由来の香り(樽香)

  • ヴァニラ
  • スパイス、ココア、チョコレート
  • コーヒー、カラメル、アーモンド
  • 燻製

樽の使い分け

一般的な赤ワイン 高級な赤ワイン
サイズ 大樽 小樽
酒類 アメリカンオーク フレンチオーク
年数 古樽 新樽

サイズによる使い分け

小樽

容量が225L程度の樽。 750mLのワイン300本相当を熟成できる。 樽の風味がよりつきやすいため、高給なワインで用いられる。

大樽

容量が1000L程度の樽。 750mLのワイン1300本相当を熟成できる。 樽の風味付けは穏やかになるため、安価なワインを大量生産するときに用いられる。

木材による使い分け

アメリカンオーク樽

北米で生育する種である、ホワイト・オーク(Quercus Alba)を材料とした樽のこと。

アメリカンオーク樽で熟成すると、ココナッツやバニラといった樽香がつきやすい。

樽の値段が安価なので、一般的な値段の赤ワインの醸造に多く用いられている。

フレンチオーク樽

フランスで生育する種である、セシル・オーク(Quercus Petraea)やペドンキュラータ・オーク(Quercus Robur)を材料にして作られた樽。

フレンチオーク樽で熟成すると、樽香の主張が控えめになる。

樽の値段が効果なため、高給なワインの醸造に用いられる。

使用年数による使い分け

新樽

新品の樽。 高給なワインの醸造に用いられる。

より樽の風味を出すために、新樽100%で醸造したり、使用年数3年以下の樽のみを使用したりする。

古樽

何度も使用した樽。 手入れすれば10年は繰り返し使用できる。 ただし、樽の風味や酸素流入の機能は徐々に弱まっていく。

一般的な赤ワインの醸造で用いられる。

樽の種類

エス/Piece(仏)

ブルゴーニュ地方で使われる小樽。 容量は228L。

バリック/Barrique(仏)

ボルドー地方で用いられる小樽。 容量は225L。

フードル/Foudre(独)

ドイツやフランスのアルザス地方で使われている大樽。 容量は1000L。