フォーティファイドワインとは、40度以上のアルコールを添加して、15度~22度程度まで度数を高めたワインのこと。
度数を高めることで、ワインの品質を安定させ、長期保存を可能にする。
ポルトガルやスペインなどの気温が高い地域で盛んに作られる。
醸造の仕組み
酵母は糖をアルコールと2酸化炭素に分解する。理論的にはアルコール発酵がすべて終わると、糖をがなくなっている。
一方、酵母は16度を超えると死滅してしまう。
フォーティファイドワインは、度数の高いアルコールを添加することで、酵母を死滅させて発酵を止める。
アルコールを添加するタイミングによって、甘口から辛口までさまざまな味わいの酒精強化アインができあがる。
- 発酵後に酒精強化:辛口となる。シェリー酒が有名。
- 発酵中に酒精強化(ミュータージュ):アルコール発酵しきれず糖が残るため甘口に仕上がる。ポートワインやヴァン・ドゥー・ナチュレル(VDN)が有名。ミュータージュの由来は、アルコール発酵中の炭酸ガスのしゅわしゅわ・ぼこぼこという音を止めること。
- 発酵前に酒精強化:ブドウの果汁にアルコールを添加した飲み物。ヴァン・ド・リキュール(VDL)が有名。
シェリー酒の醸造方法
フォーティファイドワインの代表例としてシェリーの醸造方法を記す。
- スティルワインの醸造方法にのっとって、アルコール発酵まで行う。
- シェリーの場合、アルコール発酵が終わった後に度数の高いブランデーを添加して度数15度まで酒精強化する。
- 樽熟成をする。樽に7割程度までワインを注ぐ。
- ワインに含まれる産膜酵母がフロールという白い幕を張る。フロールはワインを酸化から守り、フロール香という独特の香りを与える。
- ソレラ・システムという方法で、ワインの品質を均一に保つ。
ソレラ・システムとは、シェリーの熟成工程で、伝統的な味わいを継承して均一に保つシステム。
一番古い樽が一番下、新しい樽が一番上にくるように積み上げられる。
最下段ののもっとも古い樽をソレラといい、もっとも熟成期間の長いワインが入っている。
ソレラの上の樽を第1クリアデラ、その上の樽を第2クリアデラといい、数字が大きいほど新しい(熟成期間の短い)ワインが入っている。
もっとも上にくる樽をソブレタブラといい、一番新しいワインが入っている。
出荷の際は、最下段のソレラから適量抜き取って瓶詰めする。
抜き取ったワインと同等の量を上の第1クリアデラからソレラに補充する。
第2クリアデラから第1クリアデラにも補充し、これをソブレタブラまで繰り返す。
このような先入れ先出し方式を用いることで、ワインの味は均一に保たれる。
代表的なフォーティファイドワイン
国名 | カタカナ表記 | 現地表記 | 特徴 |
---|---|---|---|
スペイン | シェリー | Sherry | スペイン南部で作られる。甘口から辛口まで味わいはさまざま。 |
ポルトガル | ポートワイン | Port Wine | 発酵途中に度数77度以上のブランデーを添加して発酵を止める。糖を残した甘味のある味わいに仕上げる。 |
ポルトガル | マデイラ | Madeira | アルコール度数96度のブランデーを添加し、加熱しながら熟成。3年以上の樽熟成が定められている。 |
イタリア | マルサラ | Marsala | シチリア島で作られる。発酵途中にブランデーなどの蒸留酒を加える。白ワインが多い。 |
フランス | ヴァン・ドゥー・ナチュレル(VDN) | Vin Doux Naturels | 天然甘口ワイン。発酵途中にブランデーなどの度数の高いアルコールを添加して発酵を止める。意図的にブドウの甘味を残したワイン。 |
フランス | ヴァン・ド・リキュール(VDL) | Vin de Liqueur | リキュールワイン。発酵前の果汁にブランデーなどを添加し、樽やタンクで熟成したワイン。 |
シェリー(Sherry)
シェリーはスペインのヘレス地方でで作られる世界三大酒精強化ワインのひとつ。
原産地呼称ではヘレス・ケレス・シェリー(Jerez-Xerez-Sherry)となっていて、スペイン語・フランス語・英語でそれぞれヘレスを表している。
辛口はパロミノ(Palomino)というブドウ品種が用いられる。
甘口ならモスカテル(マスカットのこと)、ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximene()というブドウ品種が用いられる。
シェリーは作り方によって3つのタイプに分けられる。
フィノ(Fino)
酵母を使って熟成したタイプ。フロール香がつき、繊細なスタイル。
度数は15度とシェリーの中では低く、食前酒として飲まれる。
オロロソ(Oloroso)
かぐわしい良い匂いという意味。酵母の影響を与えず熟成したタイプ。
フロールが生じないため酸化が進み、複雑で重いワインになる。
度数は17~22度と高く、ナッツ・コーヒー・カラメルなどのニュアンス。
アモンティリャード(Amontillado)
フィノを酸化熟成させた、フィノとオロロソの中間タイプ。
度数は16~22度で、フィノの繊細さとオロロソのナッツのような香り高さを兼ね備える。
マンサニーリャ(Manzanilla)
フィノタイプの中でも、海に近いサンルカール・デ・バラメーダで作られたワイン。
海風をうけて塩味を感じられるため、シーフードとの相性が良い。
ポートワイン
ポルトガルのドウロ地方で作られる、世界三大の酒精強化ワインのひとつ。
発酵中に77度のブランデーを添加するため、甘口のワインに仕上がる。
赤ワインが多いが、白ワインやロゼワインのポートワインも作られている。
ルビータイプ
スティルワインと同様、短期間の樽熟成をして出荷するタイプ。
- 安価でフレッシュなルビーポート(Ruby)
- 100年以上の熟成が可能なヴィンテージポート(Vintage)
- ルビーポートとヴィンテージポートの中間にあたるレイト・ボトルド・ヴィンテージ(L.B.V)
熟成は消費者が行うため、長期熟成可能なワインの中では安価。
イギリスの上流階級は、子供の生まれ年のヴィンテージポートを買う習慣があるとか。
トゥニータイプ
長期間の樽熟成で意図的に酸化させたポートワイン。
ナッツやコーヒーなどの香ばしいニュアンスが感じられる。
作り主が熟成を行い、飲みころとなった状態で出荷する。
ルビータイプと比較すると、熟成のコストが加算されるため価格は高価。
ラベルには「Tawny 10」、「Tawny 40」などのように、平均的な熟成年数を表記する。
マデイラ
ポルトガルの南西1000kmに浮かぶマデイラ諸島で作られる世界三大酒精強化ワインのひとつ。
発酵中または発酵後に96度のアルコールを添加し、17度~22度に調整する。
その後加熱することでマデイラ特有の香ばしい風味をつけ、3年以上樽熟成する。
加熱の方法は2つ:
- カンテイロ(Canteiro):窓や屋根の薄い倉庫に樽を並べ、太陽熱を取り込んで室内を温めて加熱熟成する方法。室内は50度近くになる。
- エストゥファ(Estufa):タンクの外部・内部に張り巡らせた管にお湯を流してワインを温める方法。50度程度で最低3か月加熱する。
マデイラはブドウ品種や熟成期間によってさまざまなタイプがある。ブドウ品種を表記するには、85%以上その品種を使用すること。
フラスケイラ(Frasqueira)/ガラフェイラ(Garrafeira)
単一品種、単一収穫念のブドウを使ったヴィンテージワイン。
再訂20年の樽熟成、最低2年の便熟成が義務付けられている。
コリェイタ(Colheita)
単一収穫年のヴィンテージワイン。ただしブドウ品種の規定はない。
5年以上の樽熟成が義務付けられている。
レゼルヴァ
- レゼルバ:熟成期間が5年
- スペシャルレゼルバ:熟成期間が10年
- エクストラレゼルバ:熟成期間が15年
ヴァン・ドゥー・ナチュレル(Vin Doux Naturels )/VDN
発酵中にアルコール(ブランデー)を添加し、発酵作用を止めて作られるフランスの酒精強化ワイン。 日本語では天然甘口ワインと呼ばれている。
アルコール発酵を途中で止めると糖が残るため甘口となる。度数は18%程度。
バニュルス
VDNのA.O.C(原産地呼称)のひとつ。スペインとの国境付近に位置するラングドック・ルーション地方で作られる。
コクのある甘口とほろ苦いタンニンで、チョコレートに合うワインとして有名。
上位のA.O.C.であるバニュルス・グラン・クリュは赤ワインから作られ、30か月以上の樽熟成が義務付けられている。
ミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴニーズ
南フランスのローヌ地方にあるVDNの有名なA.O.Cのひとつ。
華やかな果実の香りを感じるさっぱりとした白ワインに仕上がる。
ヴァン・ド・リキュール(Vin de Liqueur )/VDL
発酵前の果汁にアルコール(ブランデー)を添加して作られるフランスの酒精強化ワイン。
発酵していないため正確にはワインではないが、ワインの仲間として分類されている。
ピノー・デ・シャラント(Pineau des Charentes)
フランスのコニャック地方にある有名なVDLのA.O.C.のひとつ。
果汁に60度以上のコニャックを添加して熟成する。
熟成期間の最低ラインは白ワインが18か月以上(うち12か月は木樽)、赤ワインとロゼワインは12か月以上(うち8か月は木樽)。
熟成期間が5年以上なら「viuex(ブュー」、10年以上なら「tres viuex」または「extra vieuex」と表記できる。
フロック・ド・ガスコーニュ(Floc de Gascogne)
フランスのアルマニャック地方にあるVDLの有名なA.O.Cのひとつ。
果汁に52度以上のアルマニャック・ブランデーを添加して熟成する。
白とロゼがあり、最低収穫の翌年3月1日まで熟成することが義務付けられている。
用語のまとめ
- ミュータージュ(Mutage):発酵中に度数の高いアルコールを添加して、酵母を死滅させて発酵を止める醸造方法のこと。
- ソレラ・システム:シェリーの熟成工程のひとつ。熟成したワインを出荷後、熟成期間の若いワインをつぎ足す。ワインの伝統的な味を継承し、味わいを均一化する。
- ソレラ:ソレラ・システムの用語。もっとも古い(熟成期間の長い)ワインが入った樽のこと。
- 第1クリアデラ:ソレラ・システムの用語。ソレラの次に熟成が長いワインが入った樽のこと。第2・第3クリアデラ…と数字が大きくなるにつれて、新しい(熟成期間の短い)ワインになる。
- ソブレタブラ:ソレラ・システムの用語。もっとも新しいワインが入っている樽のこと。
- シェリー:スペインのヘレス地方で作られる酒精強化ワイン。繊細なフィノ、シーフードとの相性が良いマンサニーリャ、香り高くフルボディのオロロソ、フィノとオロロソの両方の特性を兼ね備えるアモンティリャード。
- フロール(Flor):花という意味のスペイン語。シェリーを樽熟成するときに、産膜酵母を育成することでできる白い幕のこと。ワインの酸化を抑え、独特なフロール香を与える。
- 産膜酵母:空気を好む特性を持つ酵母のこと。シェリーは熟成の際に樽を万反にせず、隙間をあけることで空気との接触面を作り、産膜酵母を育成する。
- ポートワイン:ポルトガルのドウロ地方で作られる甘口の酒精強化ワイン。発酵中に77度のブランデーを加える。短期間樽熟成したフレッシュなルビータイプ、長期間樽熟成した香ばしいトゥニータイプがある。
- マデイラ:ポルトガルの南西1000kmに浮かぶマデイラ諸島で作られる酒精強化ワイン。発酵中または発酵後に96度のブランデーを添加する。酒精強化後に加熱熟成することで、マデイラ特有の香ばしい風味をつける。
- カンテイロ(Canteiro):マデイラの加熱処理方法のひとつ。窓や屋根の薄い倉庫に樽を並べ、太陽熱を取り込んで室内を温めて加熱熟成する方法。室内は50度近くになる。
- エストゥファ(Estufa):マデイラの加熱処理方法のひとつ。タンクの外部・内部に張り巡らせた管にお湯を流してワインを温める方法。50度程度で最低3か月加熱する。
- フラスケイラ/ガラフェイラ(Frasqueira/Garrafeira):単一品種、単一収穫年のヴィンテージ・マデイラ。最低20年の樽熟成、最低2年の便熟成が必要な希少ワイン。
- ヴァン・ドゥー・ナチュレル(VDN):ミュータージュを行い甘口に仕上げたフランスの酒精強化ワイン。ラングドック・ルーション地方のバニュルス、ローヌ地方のミュスカ・ド・ポーヌ・ド・ビニーズといったA.O.C.が有名。
- ヴァン・ド・リキュール(VDL):発酵前の果汁を酒精強化したフランスのワイン。コニャック地方のピノー・デ・シャラント、アルマニャック地方のフロック・ド・ガスコーニュのA.O.C.が有名。