心を豊かにするワインの世界

ワインは情報量の高い飲み物。香り、味、ブドウ品種の特性、気候、文化、歴史、生産者の哲学…。どこまでも奥行きのある飲み物。だからこそ夢中になれる。心を豊かにする。ワインを理解するために、ワインを楽しむために、経験を積み重ねていく。

ビール概論

ビールは麦をアルコール発酵することで作られる世界三大醸造酒のひとつ。

アルコール度数は5%程度。醸造酒の中では度数は低め。

酒税法におけるビールの定義は、「麦芽、ホップ、水、その他の原料を発酵させたもので、麦芽の重量が他の原料の50%以上且つアルコール度数が20度未満のもの」。

麦芽の重量が他の原料の50%未満になるとビールではなく発泡酒に分類される。

アルコール発酵の仕組み

ブドウ糖・果糖、水、酵母の3つがそろうと、エチルアルコールと水と2酸化炭素が得られる。これをアルコール発酵という。

ビールは麦を原料としているが、麦には糖も水もない。

そこでまず麦に含まれるデンプンを糖に分解する糖化という工程を行う。

次に、糖化した原料に水と酵母を加えてアルコール発酵を行う。

このように、糖化とアルコール発酵の2ステップで発酵する方法を複発酵という。

ビールは、糖化とアルコール発酵が別のタイミング、別の容器で行われる。

このような複発酵の方法を単行複発酵という。

日本の酒税法では、副原料として米・とうもろこし・デンプン・果実・野菜などさまざまな原料を加えることができる。

副原料になにを加えるかによって、その土地固有のさまざまな味わいのビールができる。

一方ドイツでは1516年に制定されたビール純粋令により、副原料の使用は認められない。

ちなみに、醸造方法がシンプルな順に並べると、ワイん、ビール、日本酒となる。

そのため、ワインは醸造技術よりも原料であるブドウの品質で差別化されることが多い。

醸造方法が複雑な日本酒やビールは、原料にはこだわらず、作り主の醸造方法で差別化されることが多い。

醸造の手順

  1. 製麦(せいばく)。まず麦を発芽させ、麦芽モルト)を作る。
    1. 浸漬(しんせき)。麦を水に2日間ほど浸して、発芽しやすい環境を整える。
    2. 発芽の工程。冷風を送り、発芽を促す。
    3. 焙燥(ばいそう)。ほおっておくと麦へと成長してしまうため、80度以上の熱風で乾燥させる。乾燥の時間や温度で2種類のモルトにわけられる。
      • ベースモルト:低温(80度)でゆっくり焙燥した麦芽のこと。
      • スペシャモルト:高温(100度)で焙燥して作る麦芽。コクや甘味をつけたり、ビールの色合いを変化させたりする。
  2. 仕込。麦芽を糖化させる。
    1. 乾燥した麦芽をこまかく粉砕する。粉砕することで糖化しやすくなる。
    2. もろみづくり。粉砕した麦芽を温水に投入し、65度の温度に保つ。米や果実などの副原料を加えることもある。
    3. 糖化の工程。65度を維持するとデンプンが糖に分解される。
    4. 濾過の工程。濾過して不純物を取り除き、透き通った麦汁を作る。一度濾過して作られる麦汁を第1麦汁という。続けてお湯をかけて再度濾過した麦汁を第2麦汁という。キリンの一番搾りは第1麦汁を使用している。
    5. ホップを加えて煮沸する。ホップはビール特有の苦みを加えたり、泡立ちを浴したり、殺菌したりといった効果がある。
  3. 発酵。10度程度まで冷却し、酵母を加えて1週間程度アルコール発酵させる。
  4. 熟成。
  5. 濾過。不純物を取り除くために加熱(パストリゼーション)・濾過する。加熱することで酵母を死滅させ、長期保存できるようにする。加熱処理しないと生ビールとなる。
  6. 瓶詰。

ビールの酒類

アルコール発酵の仕方によって、上面発酵、下面発酵に分けられる。

  • 上面発酵:高温で一気に(4日程度)アルコール発酵する方法。発酵が終わると酵母が浮き上がってくる。高温で活動すると香成分の「エステル」を生成するため、香りがたち、フルーティーな飲み口になる。
  • 下面発酵:低温でゆっくり(1週間程度)発酵する方法。発酵が終わると酵母が沈殿する。香りが抑えられ、すっきりした飲み口となる。

上面発酵で作られたビールをエール、下面発酵で作られたビールをラガーと呼ぶ。

エールやラガーは作り方によってさまざまなスタイルに分けられる。スタイルは100種以上ある。

スタイル名 発酵上の分類 説明
ピルスナー ラガー チェコで誕生。世界中で作られているスタンダードビール。7割はピルスナービール。
ボック ラガー ドイツ発祥。ホップの香りが芳醇で力強くコクのある味わい。ピルスナーよりやや度数が高め。
アルト エール ドイツ発祥。ホップの苦みのきいた深いコクとまろやかな味わい。
バイツェン エール ドイツ発祥。小麦麦芽を50%以上使用したビール。バナナのようなエステル香と苦みのないやわらかな味わいが特徴。
ポーター エール ロンドンで作られた黒ビール。コーヒーやココアのようなロースト香とまろやかなコクを感じられる。ロンドンのポーターが好んで飲んだ。
スタウト エール アイルランド発祥。ポーターの副原料に佐藤を使って度数を高めた黒ビール。香ばしいナッツやコーヒーのロースト香を感じるどっしりとしたビール。
トラピスト エール ベルギーの修道院で作られた。キリスト教で、赤ワインの代わりにとして。飲み方も赤ワインのように常温でゆっくり飲む。
ランビック エール ベルギーの伝統的なビール。野生酵母で自然発酵。強い酸味と独特な香り。

キリスト教は赤ワインを消費するが、ベルギーは寒くてブドウが育たない。そのため、ビールを赤ワインのように熟成させて作った。

これがトラピストというビールで、度数が10度程度と高く、13度くらいの常温で飲む。

黒ビールとは、スペシャモルトの中でも、こげるまでしっかり焙燥した、チョコレートモルトもしくはブラックモルトというモルトを色付け・風味付けに使っているビールのこと。

ビールの歴史

ビールの起源は紀元前4000年以上も前。メソポタミアでは労働の対価としてビールが支給されるほど生活に密着していた。

ビールの醸造技術は1800年半ばに急速に発展。

近代ビールの三大発明といって、アンモニア式冷凍機、低温殺菌法、酵母純粋培養法が次々に発明された。

用語のまとめ

  • 醸造酒:果実や穀物などの原料をアルコール発酵した飲み物
  • アルコール発酵:ブドウ糖・果糖、水、酵母の3つがそろうことで、エチルアルコールと水と2酸化炭素を得る手法。雑菌が繁殖しない清潔な環境が必要。
  • 複発酵:まず糖化して糖を得てからアルコール発酵させる方法。対して原料に直接酵母をくわえてアルコール発酵する方法を単発酵という。
  • 単行複発酵:複発酵の手法のひとつ。糖化と発酵を別々のタイミング、別々の容器で行う方法で、ビールの醸造で用いられる手法。一方、糖化と発酵を同じタイミング、同じ容器で行う方法を並行複発酵といい、日本酒の醸造で用いられる。
  • 副原料:ビールの原料は麦だが、副原料として米・果実・野菜などが国によって認められている。副原料によって個性的なビールが生まれる。
  • ビール純粋令:1516年にドイツで制定された。ドイツでは副原料を使わず、純粋に大麦で作る。
  • 麦芽モルト):発芽した麦のこと。
  • 製麦(せいばく):麦を発芽させて麦芽を作ること。
  • 浸漬(しんせき):麦を水に浸して発芽しやすい環境を整えること。
  • 焙燥(ばいそう):80度程度の熱風にあて、麦芽を死滅して乾燥させること。
  • ベースモルト:低温(80度)でゆっくり焙燥した麦芽。ビールの基本原料となる。
  • スペシャモルト:高温(100度)で焙燥した麦芽。ビールの色合いを変化させたり、コクや甘味をつけたりする。
  • ホップ:ビールの原料のひとつ。ビールに苦みを加えたり、泡立ちを浴したり、殺菌したりといった効果がある。
  • パストリゼーション:低温殺菌法。1816年にルイ・パストゥールが見つけた。100度以下で数十分加熱して細菌を死滅させる。これにより長期保存ができるようになった。
  • 生ビール:熟成後パストリゼーションしないビールのこと。酵母が生きているので長期保存にはむかない。
  • 上面発酵:高温で一気に(4日程度)発酵させる方法。発酵が終わると酵母が浮き上がる。酵母は高温で活動するとエステルという香り成分を生成するため、香り高くフルーティーなビールになる。
  • 下面発酵:低温でゆっくり(1週間程度)発酵する方法。発酵が終わると酵母が沈殿する。香りが控えめで、すっきりした飲み口になる。
  • 上面発酵ビール(エール):ポーター、アルト、バイツェン、スタウト、トラピストなど。
  • 下面発酵ビール(ラガー):ピルスナー、ボック。